わからない。

僕は本当は何がしたかったんだろう。










+僕が奪ってしまったのに+










ちょっとした事情で、思いがけずミネルバに滞在することになった。
それもこれも、アスランが艦長さんを説得したから。
僕は、アークエンジェルが迎えに来るまで、ここで過ごすことになった。

だけど、いいのかな、と思ってしまう。
真っ赤に燃えるあの瞳を思い出して。


左腕が、じくじく痛む・・・。










++++++++++++++++++++++++++++++










甲板に通じる扉を見つけて、外に出て、座り込む。


ぼうっと夕焼けに染まり始めた海を見て、思い出した。
確か、二年前もこうやって座っていたことがある。
あの頃は、バルトフェルドさんを殺したと思っていて。

・・・殺したくなかったんだって、泣いてたんだっけ。

そこをカガリに見つかって、慰められて・・・。


ふっと、苦笑した。

二年前のことを、こうやって思い出して、懐かしいと思える日が来るなんて。
あの頃の僕は、少しも考えなかっただろう。


そう。
あの頃の僕は、・・・


『トリィ』

「!? う、わっ!」


トリィが肩から飛び立って、僕は後ろを振り向いた。
そこにいたのは、あの赤い瞳のザフトの軍人さん。
トリィに飛び付かれて、驚いている。


そう。
二年前の僕は、ただ守ることと生きることで、精一杯だったんだ。
だから、向けられる悲しみを、知らなかった。


じく、とまた左腕が痛む。


「ごめんね。トリィが驚かせちゃったかな」

「べ、別に・・・」


そう言って強がるけど、実際はかなり驚いたと思う。
驚いてなかったら、あんなに声をあげないよね。


「そう? ならいいんだけど」


いたって普通に、そう言った。


シン・アスカ。

彼のことは、ちゃんとアスランから聞いてる。
頼んだわけじゃないけど、教えてくれた。

心配してくれたんだと思う。
彼は僕を憎んでいるのだから。

憎しみを押さえ込んで、なんて、言えない。
だって、結局僕も、その連鎖に打ち勝つことができなかった。


しばらく羽ばたいていたトリィが、彼の肩にとまる。
少し驚いたけれど、なんだか微笑ましく映る。
思わず小さく笑ってしまったら、彼がこっちを見てきたので。


「トリィは、君が気に入ったのかな」


そう言ったら、彼はトリィに視線を移し、怪訝そうに見る。
しかし、すぐに僕に視線を戻して、


「・・・あんた、なんで」

「突っ立ってないで、座ったら?」


・・・つい、そう言ってしまった。
彼が何を言おうとしているのかはわからないけど、あまり良い予感はしなかったから。

怒って立ち去るかな、と思ったのに。
彼は僕の右斜め後ろに腰を降ろしてきた。


「・・・なんでそんな微妙な位置を陣取るかな・・・」


ついそう言うと、


「俺の勝手だ」


そう言い返してきた。


・・・立ち去ってくれたほうが良かった。


そう思いながら、「ふーん」と、それだけ言った。
彼の肩にとまっていたトリィが、この短い距離を移動して、僕の肩に戻る。


「・・・あんた、なんで」

「風がきもちーね」


また、遮ってしまった。
今度こそ怒るかな?
そう思ったのに、彼は話題を変えてくる。


「いつも持ち歩いてるのか?」

「え?」

「そのロボット」

「ああ、うん。連れてるよ」


それがどうしたのだろうか。





「なんで?」





そう聞かれて、はっきりと危機感を覚えた。
このままじゃ、確実に彼を苦しめる。

僕は彼を振り向いて、真っ直ぐに見た。





「ダメだよ」





「え・・・」

「君は僕が憎い。僕を殺したいと思っている。
 そんな相手である僕に、そんなことを聞いちゃいけない」

「どう、いう・・・」


僕が言っていることの意味が掴みきれないのだろう。
呆然と問い返された言葉に、胸が痛むのを感じだ。


「・・・僕もいけなかった。本当は、『座って』なんて言っちゃいけなかったんだ。ごめんね」


苦笑して、立ち上がった。

話をそらすためとはいえ、僕は一番言ってはいけないことを言ったのかもしれない。
苦い気持ちでいっぱいになって、はやくこの場を立ち去りたいと思った。


なのに。


彼の横を通り過ぎるときに、足を掴まれて。
突然で、反応しきれなかった。


「ぅわ!?」



どたん



「あ・・・」


彼は無意識だったのかもしれない。
顔面まで床につけた僕を見て、呆然としているようだった。

トリィの羽音が聞こえる。
きっと、僕がこけた拍子に飛び上がったんだろう。


「わ、悪い・・・だいじょう、ぶ・・・」


彼の言葉が不自然に途切れた。

体を起こして、彼を見る。
固まっているようだ。
僕を心配するような言葉を言いかけたことに、彼自身が困惑している。

思いっきり打ち付けてじんじんと痛む鼻を押さえたまま。


「・・・こうなっちゃ、いけなかったのに・・・ね。本当に、ごめん」

「・・・だから、なにが・・・」





「これで、僕が君に殺されれば、君の心に深い深い傷ができてしまう」





こんなことを言えば、みんなは怒るかもしれないけど。


本当は、僕は生まれてきちゃいけなかったんだ。
生きていちゃいけないんだ。
僕の存在そのものが爆弾なのだから。

みんなは、なんとか僕を生かそうと頑張ってくれてる。
僕も、今は死ぬわけにはいかないと思っている。

だけど、戦争が本当に終結したら。
僕が生きていることが、とんでもないことを引き起こす可能性があるんだから。


いつか、誰かが殺しに来るのだろうか。
そう思っていたときに、彼に会って。


「・・・あんた・・・俺に殺されてもいいって・・・もしかして、思ってたのか?」

「・・・君の事は、一応、アスランから聞いてるから」


いつか、彼が殺してくれるのだろうかって。
そう思ったんだ。


「・・・ふざけるなっ・・・あんた死にたくないとか思わないのかよ!?」


彼は怒ったように、僕の襟首を掴んできた。

こうして怒ってくる様子を見ると、きっと、彼は僕をもう殺さないだろう。
殺しても、彼の心に大きな傷ができてしまうだろう。

失敗した。


「・・・死にたいって、思ってるわけじゃない。
 ただ、生きのびる時は生きのびるし、死ぬ時は死ぬ。それだけだよ」


嘘じゃないし、実際そうだと思う。

死にたくなくても、死んでしまうし。
生きたくなくても、生きてしまうことがある。


でも、彼にとっては屈辱的な答えだろう。
大切なものを奪った僕が、こんなことを言うなんて。


今度こそ怒るかと思った。
なのに、彼の視線は下で、その瞳は大きく開かれていて。

突然、飛び掛られて、また反応し切れなくて。


「わっ・・・」



ゴン



思いっきり頭をぶつけた。


「〜っ・・・」


ぶつけたと思われる箇所に手を当てる。
痛みをやり過ごして眼を開けたら、視界いっぱいに、彼の泣きそうな顔が広がっていた。


「・・・嘘だろ・・・?」

「な、なにが・・・?」


突然問われて、なんのことかわからない。
それなのに、何故か声が震える。


「さっきの、嘘だろ?」

「・・・なんで?」


答えは返ってこなかった。
僕の顔の横にある彼の手に、ぐっと力が入る。





「本音隠して、あんた何がしたいんだよ!?」





驚いて、しまった。
きっと、表情にも出ている。


本音?
本音ってなに?

そう自問しつつ、どこかで答えを知っている自分がいて。
でも、認めようとしない。


「言えよっ・・・言ってくれよ!」


苦しそう言う彼。

ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
僕はどうしてこんなに彼を苦しめているんだろう。


・・・本当は、苦しめたくなんて、ないのに。


「・・・痛いんだよ・・・なんでこんな痛いのか俺もわかんないけど、痛いんだよ、それ!!」


何が、とは。
彼は言わなかった。

ただ、あたたかい涙が降ってきて、拭えない彼の代わりに、そっと拭ってやる。


そういえば、二年前は泣いてばかりだったな。
たくさん苦しんで。

今、たくさん苦しめている。


「・・・ごめんね。本当に、ごめん・・・」

「言えよっ・・・」


そう言う彼を、頑なに拒む。


「・・・言えない」

「なんで!」

「言ったら更に、君を傷つける。僕を知ることは、君には傷にしかならない」


馬鹿だと思う?
自分を憎んでいる相手の心配をして。


だって、知ってしまったら憎めないことを知っているから。
それは悪いことではないのだけど、とても苦しいことだから。

幸せを奪ってしまった僕は、せめて君の憎しみの捌け口になってあげたいのに。


「もういい」

「え・・・」





「もうそんなのどうでもいいから! 言えよ!!」





彼は感情的で。

僕並に馬鹿だった。





「・・・どうでもいい・・・って・・・」

「なんで俺のこと気遣ってんだよ!? 俺はあんたを殺そうとしたのに・・・なんでっ・・・」


眼を丸くして、彼を凝視する。

彼は分かっているのだろうか。
それが楽な道ではないことを。


「・・・いいから、言えよ」

「・・・それは、」

「言えって! あんた本当は・・・」


そこで区切られて、続けられた言葉に、一瞬。










「本当はあんただって生きたいんだろ!?」










呼吸が止まるかと思った。


違う。
違う。

『生きたい』なんて思ってない。

僕はこの世界にあってはいけないんだ。
僕は生まれてきてはいけなかったんだ。

わかっているから、『生きたい』なんて思っているはずがないんだ。


・・・思っている、はずがない。




のに。





目じりが熱くなって。
顔の横を流れていくあたたかい感覚に、自分が泣いていることを知る。
それをどう思ったのか、彼は僕を押し倒した状態から、抱きしめてきた。


「・・・言えよ・・・言っていいから・・・」


強く。
強く。
抱きしめられて。

腕を伸ばして、彼の背中部分の布を掴む。


「・・・き、たい・・・」


言葉にしてはいけない。
警告はなるのに、どうしても止まらない。


「・・・生きたい・・・本当は・・・みんなと・・・」


左腕が痛みを訴えるのもかまわず、手に力をこめる。


「一緒に・・・・・・・・・・・・幸せにっ・・・」










ごめんなさい

ごめんなさい

僕はいけない子なんです



存在してはいけないとわかっているんです

本当は望んじゃいけないとわかっているんです



なのに、望んでしまう

あたたかく触れるぬくもりを





本当は、みんなと一緒に生きたいんです










しばらく、小さく泣いていると、彼は少しだけ体を離した。
今感じているものを失うのが嫌で、彼の背にある手ははずさない。

彼は僕を憎んでいると、分かっているのに。
縋られても、彼が困るだけだって、分かっているのに。


彼は、しばらくただ僕を見ていた。
そして、突然、唇にぬくもりが触れた。
目の前に広がる彼の綺麗な顔が、それが彼の唇だと気づかせる。
久しぶりに触れた他人の唇はやわらかくて・・・あたたかかった。


多分、それはほんの一瞬のことだった。
離されて、すぐに尋ねる。


「・・・どう、して・・・」


どうしてキスなんかするんだろう。

僕が憎いはずだろうに。
僕なんかに泣かれて困っているはずだろうに。
好きでもない男になんて、キスしたくないだろうに。


だけど、彼は答えてはくれず、


「黙って」


それだけ言って、また重なってきた。
それもすぐに離された。


呆然としていて。
だけど、嫌悪感のようなものは感じなくて。
抵抗もせず、背中に回した腕もそのまま。


どうして、彼が僕にこんなことをするのかはわからないけれど。
僕は、このことを嬉しく思っているような気がした。

罪悪感の片隅で。










ごめんなさい。

君の家族、君の家、君の幸せ。










僕が奪ってしまったのに。



















朝比奈ゆーり様から頂きました、「僕が奪ってしまったのに」ですv
こちらはキラ視点ですが・・・併せて読みますと切なさが更に倍増しましたっ(涙)
キラには本当に幸せになってほしいです・・・シンに頑張って貰わないと!
素敵な小説、本当にありがとうございました!!

ささ、次は「甘えんぼ」へどうぞv




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