+甘えんぼ+
もう、何度触れ合っただろう。
数えることも忘れ。
むしろ数えても覚えていないくらい。
シンは、ようやく口付けることをやめた。
しかし、まだ陽が落ちきっていないことから、ほんの数分しか経っていないことが知れる。
「・・・泣き止みました?」
「・・・うん」
目元が痛々しく、赤くはれている。
それはシンも同じだ。
シンはキラの上から体をどけ、横に座る。
そして、キラのさらさらと風になびく髪の毛を軽く梳いた。
「・・・すっきりしました?」
鉛のようだった心が、羽でも生えているのではないかと思えるようになっている。
言われて気付き、キラは驚いた。
「・・・うん」
それを聞いて、シンの表情が緩んだ。
なにか、慈しむようなその視線に、キラは居たたまれなくなった。
「・・・良かったの?」
「なにがですか?」
いつの間にか、ずっとタメ口だった口調が敬語になっている。
「・・・僕は、君の仇でしょう?」
「・・・そうですね。自分でも馬鹿だと思いますよ」
キラに向けていた視線を、シンは空に向けた。
「でも、しょうがないじゃないですか。そうしたいって思ったんだから」
理屈とか、そんなものではなく。
ただ、純粋にそう思っただけで。
特に深くは考えていなかった。
「・・・・・・」
何かを言いたくて、言えなかった。
言ってはいけないことだと思った。
しかし、それに気付いたシンが、キラの髪を再度梳く。
「溜め込みすぎじゃないですか?」
「え・・・?」
「本音とか。どうしてそんなに抑え込むんですか?」
「それは・・・」
違う、と否定できたらどれだけ楽だろう。
ほんの数分前なら、そうできただろうに。
今は、彼の瞳の前で、嘘がつけそうにもない。
「・・・言っちゃ、いけないと思ったから」
「言うだけならタダですよ」
シンが真面目にそう言うので、キラは思わず苦笑した。
「・・・そうだね」
それでもキラは、自分にそれを許しきることができなかった。
「・・・なら、俺の前でだけでいいんで、本音で話してください」
「え・・・」
「俺はもうすでに知ってるんだから、問題ないはずです」
「・・・仇、討てなくていいの?」
これ以上知ったら、本当に辛いよ?
しかし、シンはとくに表情も変えずに、
「あんな顔見せられたら、そんな気も失せますよ」
「ごめん・・・」
「なんで謝るんですか。ほんと、変な人だな・・・」
呆れたようにシンが言った。
「・・・俺は、殺せないんじゃない。殺したくなくなったんです」
「シン君・・・」
「あの時あなたを殺さなくて良かったって、心底思ってるんですよ」
何故だろう。
彼の淋しそうな笑顔を見ていると、幸せになってほしくなる。
そんな笑顔を間近で見たいと思う。
「だから、もう気にせずに本音を話してください」
「・・・僕、甘えんぼだから・・・そんなこと言われたら、めちゃくちゃ甘えちゃうよ・・・?」
「・・・意外。ま、別にかまいませんよ。その分俺も甘えさせてもらいますから」
「・・・うん」
「じゃ、交渉成立」
シンは立ち上がって、まだ寝転んでいるキラに手を差し出す。
意図はよく分からないが、とりあえず上体を起こして、その手に手を重ねる。
シンはキラの手を掴んで、立たせた。
そして、壁際で連れて行き、そこでキラの手を離す。
座り込み、足の間を広げて、そこに座るようにとキラに示す。
首を傾げながらも、キラは素直にそこに座る。
シンはギュッとキラを抱きしめる。
キラは驚いて、しかし、シンの顔を窺うことはできない。
「シン君・・・?」
「泣いて疲れたんで・・・ちょっと付き合ってください」
そう言えば、少し眠いかも。
キラはそう思って、「いいよ」と返事をした。
楽な体勢を取って、体重をシンに預ける。
「・・・重」
「え、ごめん」
「嘘」
「・・・どっち」
「軽い」
「・・・そう」
「おやすみ」
「おやすみ・・・」
たくさんの人が優しくしてくれる中。
甘えていいと。
甘えさせてと。
その両方を言ってきたのは、シンだけだった。
朝比奈ゆーり様から頂きました、「甘えんぼ」です!
っっ・・・・!!!(←声にならない叫び)
和解と言うべきか何と言うべきか・・・物凄く癒されました、私・・・。
心の底から二人とも良かったね、と!(泣)
あぁ、上手く言葉に出来なくて済みません;; ありがとうございました!!
そして次は
「一緒に」
です。どうぞっ!!
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